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特許・商標・意匠等の産業財産権の申請等、著作権対策や営業秘密に関する話題等、広く知的財産権に関する記事を載せています。また、私が経営する特許商標事務所についてのピーアールも記載しています。
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03.10.2010
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商標登録無効審判の有効審決の取消訴訟「iモード」事件より見る商標の本質
>> 知的財産権
 今日は。 付記弁理士の山本 真一こと、大阪府にある高槻特許商標事務所の経営者弁理士である「ヤマシン」です。

 今回の記事は、話題を変えて、商標権の有効・無効を争う審決取消訴訟事件の、「iモード」事件を扱います。

 今回扱う事件は、目立たない、当事者系の審決取消訴訟事件の一つでありますが、事件の内容は、けったいな(標準語で言えば、ふしぎな、又は、おかしな、という風ですか。)内容です。だけれども、事件の争点から見て、商標権の本質が垣間見られます。

 尚、「当事者系の審決取消訴訟」とは、特許庁の審判官の合議体が、審判請求人からの請求を受けて、特許庁長官が付与した権利(特許権、意匠権、又は商標権)の有効・無効を準司法手続きに則り審理した上で下した審決の結論に不満を有する審判請求人又は審判被請求人の一方が、他方を被告として、知的財産高等裁判所に於いて、当該審決の違法を主張して、当該審決の取消の判決を求める訴訟であります。以上の定義から判る通り、審決を下した張本人である特許庁の審判官の合議体は、訴訟の蚊帳の外であります。原告及び被告が、審判官を外した上で、裁判所に於いて、審判官の合議体が書いた審決書の文言を争うのです。その意味では、本件訴訟は、けったいな行政訴訟でありますが、あくまでも、行政事件の抗告訴訟事件の一種であるとされており、行政訴訟の一種である「当事者訴訟」とは異なるとされております。

 さて、話を本筋に戻しまして、本事件では、原告が個人発明家Xである一方、被告Yは、大企業であります、あの(株)NTTドコモであり、問題となった登録商標があの有名な「iモード」であることから、本事件は「iモード」事件と言えましょうか。

 原告Xは、発明の名称を「数字キーのみを用いて総ての文字・記号を入力することが可能な入力装置とそれを用いたフィルム描写装置」とする日本国特許権及び米国特許権を有する発明家であります。

 そして、原告(審判請求人)Xは、被告(審判被請求人)のNTTドコモが販売する携帯電話機の一機種の機能が原告Xの斯かる特許権を侵害すると主張した上で、

 その様な原告Xの特許権を侵害する携帯電話機の販売を通じて携帯無線電話サービスを提供する被告Yが当該サービスに於いて使用している役務商標権の登録商標「iモード」が公序良俗に反するので、「iモード」の標準文字からなる被告Yの商標権が無効であることを主張して商標登録無効審判を請求しました。

 ところが、特許庁の審判官の合議体は、商標法第4条第1項第7号に規定する「公序良俗を害するおそれがある商標」とは、その構成自体が反社会的で許容できないものの場合であるとの通説的見解に依拠した上で、「iモード」の標準文字からなる本件商標権の構成は公序良俗違反の構成とは言えないと判断して、特許庁長官の名で以って、当該商標権は有効である旨の審決を下しました。

 そこで、原告Xは、これを不服として、(株)NTTドコモを被告Yとする、特許庁の当該審決の取消を求める審決取消訴訟を、代理人をつけることなくX自身自ら訴訟手続きを遂行することで、提起しました。ここで、原告が、登録商標「iモード」が商標法第4条第1項第7号の「公序良俗違反の商標」であると主張する根拠となる規定が、商標法第29条の規定であります。

 ここで、商標法第29条は、商標権と、その出願日前に出願された特許権等の産業財産権やその出願日前に創作されて発生した著作権とが抵触する場合の調整規定であります。

 よくぞや、こんな規定を原告Xが見つけ出してきたなあとは、感心する次第であります。

 と言うのは、商標を実務上専門とする弁理士は当然に覚えて知っている重要な規定でありますが(しばしば実務上問題となるのは、商標権と著作権との抵触の場合であります。)、商標を実務上専門業務としない、例えば特許のみ専門の弁理士にとっては、当該規定を忘れてしまっていると言うのが通常ではないかと思われるからであります。

 さて、商標法第29条は、商標権がその指定商品等についての使用の態様により他人の先の知的財産権と抵触する場合には、あくまでも、商標権が有効であることを前提として、指定商品等の内で抵触する部分についてその使用態様により当該登録商標を使用することが出来ないと規定することで、権利間の調整を図った規定であります。つまり、本条は、当該商標権は有効であるけれども、当該抵触部分の範囲内では当該登録商標を使用することが出来ないですよと、規定するにすぎません。

 従って、仮に、本件の登録商標「iモード」の使用が原告Xの特許権に抵触することがあっても、その使用が限定されるだけにすぎず、商標権自体は有効でありますから、そのこと事体は、本件の登録商標「iモード」の構成が「公序良俗違反」に該当することとは何等結び付かないのであります。

 ここで、商標法第29条が想定している「商標権と特許権との抵触」とは、次の場合に限定されるでありましょう。

 即ち、当該商標権が、その登録商標を構成する標章が「立体的形状」から成る場合(商標法第2条第1項柱書き)である「立体商標権」であり、他方の特許権が物の形状にその技術的特徴を有する場合であります。この様な場合には、当該立体商標権をその指定商品等について使用する場合に、その態様如何によっては、当該特許権を実施することとなってしまい、特許権との抵触が生じ得ます。

 従いまして、登録商標を成す標章が文字や図形や記号やそれらの組み合わせから成る「2次元的」な構成を有する場合には、その様な標章を有する商標権が、当該指定商品等についての使用に於いて、特許権と抵触することは、あり得ないのであります。

 そうすると、原告Xの特許権はいわゆる電気系の発明に関する特許権でありますから、仮に、被告Yが販売する携帯電話機の機能が原告Xの特許権を侵害するものであるとしましても、携帯電話機による無線電話通信の提供に関する指定役務に関して、被告Yが、「2次元的」な構成を有する登録商標「iモード」を、例えばパンフレットやちらし広告等について使用しても、その使用は、原告Xの特許発明を実施するものでは何等ないのであります。

 改めて認識すべき点は、商標とは、ある業務を営む者が競合他社の業務と自己の業務とを識別するために用いる標識にすぎないのであり、その保護目的は市場に於ける公平な競争秩序を保つことにあり、当該業務の提供に関連する商品の機能を保障することではないのであります。

 本件訴訟に於いて、裁判所は、次の通りに判示して、原告Xの全ての主張を退ける請求棄却の判決を下し、当該判決は確定しました。即ち、

 商標が商標法第4条第1項第7号に該当するかどうかは、当該商標の構成等に基づいて判断すべきであり、指定商品又は指定役務に係る製造、販売等の態様が他人の知的財産権等を侵害するかによって判断すべき根拠はない。

 商標法第29条は、・・・、当該商標登録を有効なものとした上で、当該商標の使用を制限することによって、他の知的財産権等との調整を図った規定である。以上の・・・趣旨に照らすならば、商標法第29条に該当する行為がある場合には、当然に商標法第4条第1項第7号に該当するとする原告の主張は、その主張自体失当である。

 本判決の結論及びその理由付けは、全くもって妥当であると、言うべきでありましょう。

本事件を振り返って、改めて、商標とは何か?を考えさせられる事件でありました。

 尚、不思議に思えるのは、何故に、原告は、被告の登録商標「iモード」の無効を主張したのでしょうか? 無効による結果、被告が標章「iモード」の使用が出来なくなっても、原告には、それによって得られる経済的利益がないのであります。その意味では、そもそも、原告には、無効審判を請求するに足りる請求適格が無かったのではないかと思われ、その点を以って、審判合議体は原告Xの審判請求を却下しても良かったのではないか、寧ろ、その方が筋が通っているとも思えます。

 被告Yが販売する携帯電話機の機能が原告Xの特許権を侵害すると主張するならば、寧ろ、原告Xは、特許権侵害の民事訴訟事件を提訴するのが筋ではなかったかと、思われるのであります。

 それらの意味を考慮すると、本件事件は、けったいな事件であると、思えます。

以上



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