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特許・商標・意匠等の産業財産権の申請等、著作権対策や営業秘密に関する話題等、広く知的財産権に関する記事を載せています。また、私が経営する特許商標事務所についてのピーアールも記載しています。
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09.10.2010
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分割出願の客観的要件の重要性~特許権侵害訴訟の控訴審判決より改めての認識
>> 知的財産権
Hellow.  付記弁理士の山本 真一こと、元歌手の山口百恵さんと同年代の「ヤマシン」です。大阪府にある高槻特許商標事務所の経営者弁理士であります。

 今回の記事では、根岸先生と鈴木先生とが、数あるカップリング反応の中でそれぞれの先生が発明されたクロスカップリング反応が評価されて、2010年度のノーベル化学賞を受賞されたことを祝して、特許関係の民事訴訟事件から再認識すべき点について触れたいと、思います。

 尚、両先生は、共に、自己のクロスカップリング反応について特許申請されなかったとの事です。大学の先生が自己の発明から対価を得て金儲けをするなんぞは、けしからんと言われる雰囲気があった時代だったそうです。そのために、後進の研究者等は、先生方の発明に係るクロスカップリング反応を自由に実施してそれを広く応用することが出来たのです。そのために、医薬品や電子部材等の分野で実用化の開発が活発に成され、多くの特許権や研究論文が生まれたとのことです。自己の発明を第三者に対してオープンにされたこと自体は、当時の状況を考えると、大学の先生らいし考え方であります。でも昨今では、素晴らしい大学教員の研究成果については、必ず大学のTLO機関が、特許権を取得して当該特許権のライセンスから得られる収入を、大学の研究費用等に振り分ける時代でありますので、「誰でも自由に使ってもいい」なんて、そんな悠長な事は言ってられない時代でありますが。

 今回の記事で取り上げる特許権侵害による損害賠償請求事件では、

 分割出願に係る特許権を保有する原告(控訴人)(不二製油株式会社)が、被告(被控訴人)(花王株式会社)の食用油の製造方法が原告の上記特許権を侵害するとして、第1審では約5億6千万円等の損害賠償額を請求し、第2審では損害賠償額を約3億円に減価して損害賠償を請求しました。が、原告の特許権がその元となる分割出願に瑕疵があったことが事実認定された結果、判決理由中で原告の特許権は無効であると宣言された結果、第1審の大阪地裁及び控訴審の知財高裁の何れにおいても、原告(控訴人)は全面的に敗訴したのであります。

 原告(控訴人)の敗訴理由の最大のポイントは、分割出願がその客観的要件を満たしていなかった点にあり、その結果、分割出願の効果である、親出願の出願日への遡及効果が認められなかった点にあります。

 その結果、原告(控訴人)の分割出願の出願日は現実に分割出願を提出した日に繰り下がってしまい、既に公開済みの原告(控訴人)自身の原出願の発明に対して進歩性を有さないから権利行使は出来ない(特許法第104条の3)との被告(被控訴人)側からの抗弁事実の主張が、知財高裁第4部の裁判所によって認められてしまいました。

 ここで、特許出願の分割出願の法律要件及び法律効果は、特許法第44条第1項~第6項に規定されております。同条第1項の規定より、「分割出願」とは、二以上の発明を包含する原特許出願(実務では親出願とも言います。)の明細書及び図面の書類に記載されている2以上の発明の一部を親出願から分離した上で、分離した発明について1又は2以上の新たな特許出願をすることを、いいます。

 分割出願は、

 1)原出願が特許法第37条に規定する「発明の単一性」が認められないとの審査結果を受けた際に、当該拒絶理由を解消するために行なわれますし、

 2)審査結果が、一部の請求項に係る発明が拒絶されていないことを示している場合に、拒絶対象の請求項に記載の発明についてはその後の拒絶査定不服審判で争うこととして原出願を係属させる一方で、拒絶対象外の上記一部の請求項記載の発明については、それらの早期の権利化をめざして、これらの発明を分割するために行なわれます。

 更には、3)原出願の明細書及び図面には記載されてはいた発明であるが、原出願の特許請求の範囲の書類中には請求項に係る発明として当該発明の権利化が図られていなかった場合に、改めて当該発明の権利化を求めて分割出願を行なう場合があります。

 更には、4)私自身が実務上たまに行なうテクニックですが、原出願の明細書及び図面には記載されていた発明が、原出願の特許請求の範囲の書類中には、その権利範囲が限定される態様で狭く記載されていたのを受けて、あくまでも下記の客観的要件を満たす範囲内で、上記の限定事項が無い、より広い範囲の構成要件で以って請求項に係る発明を記載して、その様に広く記載される様になった発明を分割出願する場合があります。これは、同時に出願された2以上の同一発明が、一方の出願では他方の出願よりも発明が広く記載されている関係にある場合でも、その逆の関係との公平性の観点から、二重特許禁止の原理の例外として、特許されるとの審査基準の記載を利用した出願戦略であります。

 そこで、分割出願の法律要件を考察してみることにします。

 先ず、主体的要件は、原出願の出願人と分割出願の出願人とが同一であることです。又、時期的要件は、原出願の補正と同時に又は補正期間内に、或いは、所定の期間内に、分割出願を提出することであります。これらの要件は特許法第44条の規定に直載に記載されているため、これらの要件を満たしているか否かの判断を弁理士が誤ることは、考えられません。

 ところが、分割出願の客観的要件は、同条には何等記載されていないのであります。ここで、「客観的要件」とは、分割出願の特許請求の範囲の書類に請求項として記載された発明が、原出願の出願当初の明細書・図面等の書類中に記載されていることであり、「出願日の遡及効」という分割出願の法律効果の観点から逆説的に導かれる重要な要件であります。斯かる客観的要件は、特許出願の補正の要件及び効果との観点・対比から、学説上及び実務上、当然に認められてしかるべき要件であると、解釈されております。

 とは言え、条文上には直載に記載されていない要件であるために、分割出願の書類の作成時に、この要件のチェックが忘れられてしまいがちであり、そのために、原出願の当初の記載範囲を越えて、分割出願用の明細書が記載されてしまうと共に、特許請求の範囲に記載の発明の構成要件も広範囲に拡大記載されてしまうという誤りをおこしてしまいがちであります。

 本控訴の訴訟事件では、原告(控訴人)は、原出願の公開後に、原出願の審査過程におきまして、A発明とB発明とを包含する、より広い範囲の請求項1を作成し、それに併せて原出願の明細書も追加記載した上で、本件特許権の元となる分割出願を行ないました。その内、A発明は明らかに原出願の明細書に開示されていたものですが、B発明は、原出願の明細書には直載には開示されてはいなかったものであり、原出願の明細書中に記載された技術用語をどの様に解釈するかによって、その当否が問題と成り得るものでありました。

知財高裁第4部の裁判所は、

 1)先ず、被告(被控訴人)が実施している製造方法は、原告(控訴人)の本件特許権の技術的範囲に属するとの事実認定をした上で、

 2)次に、本件特許権の元となる分割出願の適法性について検討し、その結果、分割出願の特許請求の範囲の欄に記載された請求項1に係る発明に包含される発明Bは、原出願の当初の明細書等には記載されてはいなかったと判断し得る新規な事項に該当すると事実認定し、j発明Bをも包含する記載形式の請求項1に係る発明の権利化を図る分割出願は、客観的要件を満足していない不適法な出願であったと認定しました。

 3)その上で、裁判所は、分割出願の出願日が現実に本件分割出願を提出した日となるので、本件分割出願に係る本件特許権は、その日までに既に公開されている原出願の明細書等の記載に係る発明より容易に想到されるものであって無効であると認定して、原告(控訴人)の全請求を棄却しました。 

 以上の通り、本事件の判決に鑑みて、分割出願を行なう場合には、くれぐれも、条文には記載されてはいないが、解釈上認められている上記の客観的要件を満足する様に、最大限の注意を払って、分割出願の書類を戦略的に作成することが必要である点が、再認識されました。この要件を満たす適法な分割出願を行な得る様に尽力を尽くすことが、弁理士の腕前の発揮の場であると、言えましょう。

 次回では、地域団体商標か、或いは、未完成発明の話題について、記載する予定です。

以上





   
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